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炭素14(14C)

概要

14Cとは*1, *2, *3

炭素の放射性同位体で、 β-壊変によりβ線を放出するがγ線を放出しない「純β放出核種」であり、半減期は5,700年です。
14Cの主な発生源は1.宇宙線と窒素原子の相互作用、2.大気圏内核実験、3.原子炉内での窒素等との放射化反応などです。3.については、使用済燃料の再処理等により排出されます。宇宙線により、年間約1.4 PBq(P(ペタ)=1015)が生成され、総量は約8500 PBqです。ほとんどが海洋中に存在し、大気中には約140 PBqが存在します。大気圏内核実験は1950年代~60年代に頻繁に行われ、約350 PBqが大気中に放出されました。多量の14Cが大気中に供給されると、大気中の二酸化炭素に含まれる14Cの比放射能は急増し、1960年代半ばには、大気圏内核実験前と比べて1.5~2倍に達しました。その後、大気圏内核実験の停止や化石燃料の燃焼に伴うデッドカーボン(14Cを含まない炭素)の供給(Suess効果)により、現在では大気中の14C比放射能は減少しています。一方、世界中の再処理施設からの排出量は約2 PBqであり、大気圏内核実験による放出量と比較して、影響は非常に小さいです。

14C分析の目的*4, *5

14Cは、平常時モニタリング時の、再処理施設の周辺住民等の被ばく線量の推定及び評価のための測定対象となっています 。また、14Cは多くの研究分野で利用されており、環境研究分野では、自然・人為起源の様々な物質の発生源探索や動態解明の自然起源トレーサーとして利用されています。考古学分野では、二酸化炭素が光合成や食物連鎖の過程で動植物の中に取り込まれ、動植物の死後に減少することを利用して、年代測定に活用されています。

14Cの主な分析方法

ベンゼン合成法

真空ラインを用いて前処理し、液体シンチレーションカウンタで測定する。環境放射線モニタリングを目的とした手法として、精度よく分析できる方法。
検出可能レベル:0.002 Bq/gC(炭素量1.7 g、計数効率75 %、BG計数率0.3 cpm、測定時間500分)。

二酸化炭素吸収法

市販の器具を用いて前処理し、液体シンチレーションカウンタで測定する。環境放射線モニタリングを目的とした手法(スクリーニングを含む)として、簡便に分析できる方法 。
検出可能レベル: 0.02 Bq/gC(炭素量1.0 g、計数効率55 %、BG計数率11 cpm、測定時間500分)。

加速器質量分析法(AMS)

真空ラインを用いて前処理し、加速器 質量分析計などで測定するので、一般的には測定の外注が必要である。研究等の目的で最も高精度で分析したい場合の方法。
検出可能レベル: 0.0002 Bq/gC(14C/12C = 1.0×10-15を換算、測定供試量は約1 mg )。

分析フロー(ベンゼン合成法)

生物試料

凍結乾燥機

乾燥物

迅速試料燃焼装置

二酸化炭素( C + O2 → CO2 )

ベンゼン合成装置

炭化リチウム( 10Li + 2CO2 → Li2C2 + 4Li2O )

アセチレン( Li2C2 + 2H2O → C2H2↑ + 2LiOH )

ベンゼン( 3C2H2 → C6H6 )

試料調製

ベンゼン+シンチレータ

LSC

測定

トピックス

トピックス1

14Cの分析、どの方法選ぶ?

14C分析は主に3つの方法がありますが、どの方法を選んだらよいでしょうか?まず、研究目的などで、できるだけ精度よく分析したい場合には、加速器質量分析法を選んでください。加速器質量分析法より高精度な分析法は今のところありません。ただし、加速器の設置には体育館位のスペースが必要で、通常、自分で所有するのは現実的ではありません。所有している機関に測定を外注することになります。外注先を見つける手間が発生します。そこまで精度の良い分析は必要ではなく、モニタリングなどを目的としている場合には、ベンゼン合成法か二酸化炭素吸収法のどちらかになります。この2つだと、ベンゼン合成法の方が、精度よく分析できます。しかし、ベンゼン合成法は前処理のために真空ラインの準備が必要です。一方、二酸化炭素吸収法は市販のガラス器具の組み合わせで前処理ができます。測定にはいずれも液体シンチレーションカウンタが必要です。さぁ、あなたはどの方法を選びますか?

トピックス2

気体は危険?

ベンゼン合成法は、ガラスでできた複雑な真空ラインを操作していきます。前処理工程は二酸化炭素やアセチレンなどの気体を扱います。これらの気体は無色透明。ビーカー内で溶液を扱う前処理と違って目に見えないので、バルブの開閉と圧力計の数値が頼りです。誤操作に気付かずに加圧状態になると、ガラス管が破裂する恐れがあります。分析するときは、保護具をしっかりつけて、細心の注意を払ってください。

関連する放射能測定法シリーズ

参考文献

  1. *1

    岩倉哲男. 原⼦⼒施設からの14C. ⽇本原⼦⼒学会誌. 1993. vol. 35, no. 10, p. 874.

  2. *2

    UNSCEAR. UNSCEAR 2008 Report. 2010. vol. Ⅰ.

  3. *3

    P.P. Povinec. et al. Impact of the Fukushima accident on tritium, radiocarbon and radiocesium levels in seawater of the western North Pacific Ocean: A comparison with pre-Fukushima situation. Journal of Environmental Radioactivity. 2017. vol 166, p. 56-66.

  4. *4

    原⼦⼒規制庁監視情報課. 平常時モニタリングについて. 原⼦⼒災害対策指針補⾜参考資料. 令和3 年12 ⽉ 21 ⽇改訂.

  5. *5

    近藤美由紀. 環境研究における⾃然トレーサーとしての放射性炭素(14C)の利⽤. 国環研ニュース.2015. vol. 33, no. 6.

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