概要
ヨウ素129とは*1
ヨウ素の放射性同位体の一つで、半減期はおよそ1,570万年です。
ヨウ素129は主にβ線、γ線を放出し、キセノン129へ壊変します。

ヨウ素129の発生源*2
ヨウ素129の発生源としては、宇宙線反応による放射化物の生成などの天然起源のほか、核実験、核燃料再処理施設、原子力施設の事故などの人為起源が挙げられます。
ヨウ素129分析・測定の目的は?*2
ヨウ素129は半減期が長く、環境中に長くとどまり続けるだけでなく、様々な環境試料を通じて循環することが知られています。そのため、環境影響評価において重要な核種の一つとして位置づけられているため、環境における放射能レベルの把握及びその評価をすることが重要です。
「平常時モニタリングについて(原子力災害対策指針補足参考資料)」において、施設起因の被ばく線量全体に対するヨウ素129寄与分の比率や測定の困難さから、平常時モニタリングの測定対象には含められていません。しかし、再処理施設周辺におけるモニタリングにおいては、稼働状況を踏まえた上で、長期的な蓄積状況、変動傾向の把握が必要とされています。
また、東京電力株式会社福島第一原子力発電所の敷地外における環境放射線モニタリングを確実に、かつ計画的に実施するため策定された総合モニタリング計画においても、海水や海洋生物のモニタリングでは、長期的な変動傾向を把握することが必要とされています。
ヨウ素129分析・測定方法は?
ヨウ素129は、調査や研究の目的に応じ、様々な分析・測定が実施されています。
(1) 放射化学分析
主に再処理施設周辺の環境放射線モニタリングにおいて、地方自治体及び事業者が実施しています。
試料に応じた化学分析を行って測定試料を調製した後、ヨウ素129のβ線またはγ線を測定する方法です。装置や器具が一般的なものが多く、広く実施されている方法です。
分析の方法としては、試料の種類ごとに、燃焼やイオン交換の前処理操作を行った後、溶媒抽出法によってヨウ素を精製します。これをヨウ化パラジウム沈殿として生成させ、測定試料とします。
(2) ICP-MS分析
主に総合モニタリング計画に示されている海域モニタリングで実施しています。
試料に応じた化学分析を行って測定溶液を調製した後、対象となる質量数を測定する方法です。放射化学分析法より高感度で、装置がやや高価ではありますが、近年普及が進んできています。

(3) 加速器質量分析(AMS)
主に調査研究目的で、研究機関が環境試料に適用しています。
試料に応じた化学分析を行って測定試料を調製した後、加速器を使用して対象となる質量数を測定する方法です。現状、ヨウ素129を定量する方法として最も高感度ですが、測定装置が極めて大型かつ高価であるため、一般的に普及しておらず、測定できる分析機関が限られています。
分析フロー(トリプル四重極)(ICP-MS/MS)
水

ろ過


分取・定容

ICP-MS/MS

生物

凍結乾燥

乾燥物


熱加水分解


分取・定容

ICP-MS/MS

分析フロー(AMS)
海水

ろ過


溶媒抽出


ヨウ化銀沈殿


ターゲット試料作製

AMS測定
生物

凍結乾燥

熱加水分解


溶媒抽出


ヨウ化銀沈殿


ターゲット試料作製

AMS測定
トピックス
トピックス1
ヨウ素131について*1,*2
ヨウ素131は、半減期が8日程度しかない、ヨウ素の放射性同位体です。ヨウ素131は人為的な起源として、ヨウ素129と同様に原子力施設の事故等で発生します。
ヨウ素131は甲状腺に蓄積するため、特に東京電力福島第一原子力発電所事故時にはヨウ素131による甲状腺被ばくが懸念されましたが、その半減期の短さから、個々の甲状腺被ばく線量を推計するのに必要な実測データは十分ではありませんでした。
このヨウ素131の推定・評価のため、ヨウ素129の量からヨウ素131量を求める手法が行われました。
トピックス2
ヨウ素の化学形と溶媒の
種類について*3,*4
ヨウ素は化学形が変化しやすい元素です。環境試料のヨウ素化学形は、I-、IO3-、有機ヨウ素など複数存在します。
ヨウ素は、存在する溶媒の種類や濃度によって、I-及びIO3-に感度差があることが報告されています。そのため、特にICP-MS測定においては、溶媒の種類や濃度によって結果が異なってしまう可能性がありますので注意が必要です。
また、溶媒の種類や濃度が同じでも、ヨウ素の化学形が異なるだけでも、分析や測定に影響を及ぼします。
トピックス3
光に注意
ヨウ素は光に当たることで遊離するという性質を持っています。そのため、保存する際は遮光するようにします。
例えば、褐色瓶に入れる、アルミホイルで包む、遮光できる棚に置くなど、対処の仕方がさまざまあります。
関連する放射能測定法シリーズ
参考文献
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*1
Evaluated Nuclear Structure Data File. https://www.nndc.bnl.gov/ensdf/ , (cited 2024-10-1)
-
*2
本多真紀. 福島第⼀原⼦⼒発電所事故後10年間の陸域における129Iの研究成果まとめ. 地球化学. 2021. vol. 55, p. 176‒192.
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*3
“G. Grindlay. et al. A systematic study on the influence of carbon on the behavior of hard-to-ionize elements in inductively coupled plasma‒mass spectrometry. Spectrochimica Acta Part B: Atomic Spectroscopy. 2013. vol. 86, p. 42-49.”
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*4
Y. Takaku. et al. Iodine determination in natural and tap water using inductively coupled plasma mass spectrometry.
Analytical Sciences. 1995. vol. 11, p. 823-827 .