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ストロンチウム90(90Sr)

概要

90Srとは*1, *2, *3

ストロンチウムの放射性同位体の一つで、β-壊変によりβ線を放出するがγ線を放出しない「純β放出核種」であり、半減期は28.91年です。
放射性Srは主に235U等の核分裂により生成され、その核分裂収率が高いことで知られています。Srの放射性同位体は複数存在しますが、その半減期や放出する放射線の性状により、環境放射線モニタリングにおいては89Sr及び90Srが対象となります。

90Sr分析の目的*4

ストロンチウムは周期表で2族(アルカリ土類金属)に属しており、カルシウムやバリウムなどの同族元素と化学的挙動が類似しているため、体内に入るとカルシウムとともに骨組織に沈着し、骨髄被ばく等の影響を与えることとなります。そのため、大気圏内核実験や原子力発電所事故等により環境中に放出されると放射性ヨウ素や放射性セシウムとともに、被ばく線量評価上重要な核種としてモニタリングする必要がある核種です。

90Srの主な分析方法

イオン交換法

強酸性陽イオン交換樹脂を充塡したカラムを用い、陽イオン交換樹脂に対する陽イオン金属の分配係数の差を利用して、SrとCa等の他のアルカリ土類金属元素とを分離する方法。樹脂カラムの交換容量を超えるほどCaを多量に含む試料の場合、複数の樹脂カラムを用いて対処する。

発煙硝酸法

硝酸の比重1.45(硝酸濃度約77 %)における硝酸ストロンチウムと硝酸カルシウムとの溶解度の差を利用してSrとCaとを分離する方法。一度の操作でCaを完全に分離除去することができないため、硝酸塩沈殿の生成を繰り返す必要があり、発煙硝酸の取り扱いには十分に注意する。また、Ca以外の同族元素の分離除去操作も別途必要になる。

シュウ酸塩法

シュウ酸塩の溶解度の差を利用して多くの陽イオン金属からSrを分離する方法であり、Caを分離除去しないので簡便ではある反面、イオン交換法等に比べて使用する器具の容量が大きく、煩雑な分析操作がある等のデメリットがある。また、炭酸ストロンチウム沈殿を測定試料とする場合、Caを分離除去していないことにより測定試料に炭酸カルシウム沈殿が含まれることになり89Srの測定ができず、分析対象核種は90Srのみに限定される。

分析フロー(イオン交換法)

海水試料

大型イオン交換樹脂カラム

洗浄

溶離

炭酸塩沈殿

イオン交換樹脂カラム

洗浄

溶離

スカベンジング

ICP-AES

回収率測定

ミルキング

LBC

測定

トピックス

トピックス1

その効率、本当に合ってる?

測定器の効率は、定期的に測定しなおしてください。何年も同じ効率を使っていると、知らず知らずのうちに効率がずれていて・・・なんてことがあります。「うちは定期的に取り直してます!」という機関も、注意してください。その取り直した効率、本当に合っていますか?今回のデータだけではなく、過去の値とも比べていますか?急に下がったり、急に上がったりしていませんか?そんな時は、「取り直した効率、合ってる?」と疑ってみてください。
分析作業全般に言えることですが、疑う心は大事です。普段と違うことは起こっていないか?何かいつもとは違って違和感は感じないか?チョットした気づきから、重大な間違いが判明することもあります。

トピックス2

LBC?LSC?

90Sr分析の測定は、主流な方法ではLBCかLSCを使います。英語の略記は似ていますが、LBCは低バックグラウンド2πガスフロー計数装置、LSCは液体シンチレーションカウンタです。他の分析で使っていたら兼用ができます。どちらでもほぼ同等の性能で分析が可能ですが、大きな違いは測定後の試料の廃棄処理です。LBCはステンレス製の試料皿なので不燃ごみ、LSCはシンチレータと混合するので有機溶媒として廃液処理する必要があります。効率用のRIを添加している試料も出ると考えると・・・?どちらが手間が少ないか・・・迷うことろです。

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参考文献

  1. *1

    原子力規制委員会. 原⼦⼒災害対策指針. 令和6年9⽉11⽇全部改正.

  2. *2

    原⼦⼒規制庁監視情報課. 平常時モニタリングについて. 原⼦⼒災害対策指針補⾜参考資料. 令和3年12⽉21⽇改訂.

  3. *3

    原⼦⼒規制庁監視情報課. 緊急時モニタリングについて. 原⼦⼒災害対策指針補⾜参考資料. 令和6年3⽉21⽇一部改訂.

  4. *4

    N. Vajda, C. Kim. Determination of radiostrontium isotopes: A review of analytical methodology. Applied Radiation and Isotopes.
    2010. vol. 68, no. 12, p. 2306-2326.

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