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ガンマ線放出核種

概要

ガンマ線放出核種の測定原理
(ゲルマニウム半導体検出器)

入射したγ線(光子)が検出器と相互作用をした結果生ずる高速電子(二次電子)を検出することにより間接的に行われる。検出器にγ線が入射すると種々の相互作用(光電効果、コンプトン散乱、電子対生成ほか)が起こり、二次電子が生じるが、この電子の電離作用によりゲルマニウム結晶中に電子正孔対ができ、それらの電荷を収集し電気信号に変えることで検出器として動作する。

ガンマ線放出核種の測定原理(ゲルマニウム半導体検出器)

γ線によって検出器が得たエネルギーの実際に観測されるスペクトル(以下「スペクトル」という。)は、主として検出器の有感部における単一あるいは多重の相互作用によってつくられるが、その他に遮へい体等の周辺物質における相互作用によって生ずる他の放射線(散乱γ線やX線)によるものが含まれる。試料のγ線スペクトルを測定した場合は複数の異なるエネルギーのγ線が混在するため、スペクトルはそれらのγ線と検出器との相互作用で生じたエネルギー分布が重なり合った複雑な形状となるが、解析対象となるのは光電ピーク(全エネルギー吸収ピーク)のみである。ゲルマニウム半導体検出器によるγ線スペクトロメトリーは、エネルギー分解能が優れており、化学分離等を必要とせずに多核種の同時定量が可能である。ALPS処理水の主要7核種*1のうち、134Cs、137Cs、106Ru、60Co、125Sbは本方法により測定が行われている。

*1東京電力ホールディングス株式会社. ALPS処理水の海洋放出に係る運用体制の変更及び測定・評価対象核種の選定【概要】. 2023. https://www.nra.go.jp/data/0004208F97.pdf,(参照 2024-10-1)

分析フロー

海水

134Cs、 137Cs の精密分析

試料詰め

測定

塩酸添加

リンモリブデン酸
アンモニウム添加・かくはん

ろ過分離

試料詰め・乾燥

測定

主な測定対象核種、γ線エネルギー及び放出比(表)

放出比が1%以上の核種別の核データを掲載している。
半減期、γ線エネルギー、放出率の値は小数点以下1桁としている。

核種名 半減期 半減期単位 γ線エネルギー(keV) 放出率(%)

60Co

1925.3

1173.2

99.9

1332.5

100

106Ru*2

371.8

511.9

20.4

621.9

9.9

1050.4

1.6

125Sb

2.8

35.5

4.4

176.3

6.8

380.5

1.5

427.9

29.6

463.4

10.5

600.6

17.7

606.7

5.0

636.0

11.2

671.4

1.8

131I

8.0

80.2

2.6

284.3

6.1

364.5

81.5

637.0

7.2

134Cs

2.1

475.4

1.5

563.2

8.3

569.3

15.4

604.7

97.6

795.9

85.5

802.0

8.7

1168.0

1.8

1365.2

3.0

137Cs

30.1

661.7

85.1

*2 106Ruについては、放射平衡にある106Rhのデータを記載

トピックス

トピックス1

エネルギー校正について

観測されるピークの中心チャネルと、γ線エネルギーの関係を求めることを、エネルギー校正といいます。これが正しく行われていれば、誤差±0.1 keV程度の精度で、γ線エネルギー(E)を決定することができます。ゲルマニウム半導体検出器のパルス波高値(P)は、エネルギーに対して非常に良い直線性を持つので、エネルギー校正の式としては実用的には一次式(E=a+b・P、aとbは定数)で十分です。一般的な放射能分析では、0~2000 keVの範囲を4000 ch、すなわち、a≒0、b≒0.5 keV/ch近くになるように、増幅器ゲインなどを調整してください。
エネルギー校正は、正しく核種の同定を行うために大変重要ですが、校正の頻度が重要なのではなく、正しい状態に維持できていることが重要です。通常の運用としては、試料スペクトルの主要ピーク(40Kなど)の位置を確認し、±2 ch以上のずれがあったら再校正することがよいかと考えます。

トピックス2

自己吸収について

容積試料について、γ線が試料媒体中で散乱あるいは吸収によって減弱する現象を、自己吸収といいます。γ線エネルギー、試料媒体の種類(元素組成、嵩密度)、試料の形状、厚さ等、幾何学的条件及びゲルマニウム結晶の形状や大きさに依存する複雑な現象です。容積試料中でのγ線の自己吸収は、数10%以上にもなることがあり、γ線スペクトロメトリーによる容積試料中の放射能分析では、自己吸収の補正は必須です。

トピックス3

BGスペクトルの生じる主な原因とは

バックグラウンド(以下「BG」という。)スペクトルは、主に次のような原因によって生じます。

1. 天然に存在する核種としては、40K、U系列(214Pb、214Bi等)及びTh系列(228Ac、208Tl)があり、測定室の構造物(コンクリートなど)に含まれるものと、測定室内の空気に存在する222Rnの壊変生成物(214Pb、214Bi)があります。外部からのγ線は、厚い鉛(5~15 cm)の遮へい体により、かなり低減できます。

2. 陽電子消滅放射線(511 keV)は、宇宙線に由来するものと高エネルギーγ線(214Biの1764 keV、2204 keVなど)の電子対生成によって生じます。

3. 通常の鉛の遮へい体には、微量の210Pb(半減期:22.3年)が含まれており、その壊変生成物である210Biのβ線(1160 keV)による制動放射線(X線)が、数1000 keV以下のエネルギー領域で、連続分布のBG計数を増やしています。

4. 遮へい体の内側表面で、γ線が光電効果を起こすと、鉛の特性X線(75.0、72.8、84.9 keV)が検出されます。100 keV以下のエネルギーの測定において、影響を及ぼす場合、鉛遮へい体の内側を、無酸素銅など他の物質(厚さ1 mm程度)で内張すると、鉛のX線を低減することができます。

トピックス4

リンモリブデン酸アンモニウム(AMP)の粒径の違いによるCsの捕集能力について

同じAMP添加量で比較すると、粒径が小さいほどCs捕集率は大きくなります。これは、粒径や小さいほど重量当たりの表面積が大きいためと考えられます。しかし、粒径が小さいほど沈降が遅く、また、ろ紙が詰まりやすくなるため注意が必要となります。

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